ネズミハナビ


“奇跡の文学ロック”を鳴らすバンドの軌跡とこれから
こんなに涙腺を刺激されても、泣きながら笑うんだ


 待望のニューアルバムが世に放たれる。今作は、現在のネズミハナビのキラー・チューンと言える新曲の“チャイナ・ブルー”と“ザ・ワールド・イズ・ユアーズ”を筆頭に、これまでの作品『BABY』『BOY』『GIRL』から選りすぐりの楽曲をリマスタリングし、さらに未発表ライヴ音源2曲を含めた全12曲を収録している。初めて手にするにもうってつけな、これぞ最高傑作!と言える一枚だ。
 改めて、ネズミハナビのことを紹介したい。3ピースバンドとは思えないライヴ・パフォーマンスが魅力で、作家活動も行っている(処女小説『コルク』が絶賛発売中)Vo/Guの吉田諒の気をてらわずとも刺さる言葉と抜群にキャッチーなメロディが胸に飛びこんでくる唯一無二のバンド。2010年4月にリリースされたフルアルバム『BOY』は〈21世紀のビート文学ミュージック〉とリスナーから各種メディアまで称賛を受けた。2011年3月にリリースされたミニアルバム『GIRL』は「ある一人のオンナノコのストーリー」を描いたコンセプト作品で、聴いた人の心に深く残った。その『BOY』と『GIRL』で、ある種、完成されたバンドのネクストが気になっていたところ、今年、9/12に高橋真樹(B)と出羽恵吏(Dr)の脱退が急遽、オフィシャルサイトで発表された。正直、ショックを隠せなかった。2人のリズム隊としての存在感とポテンシャルの高さが、平凡な3ピースバンドとは一線を画していた要素でもあったからだ。先日、11/19の渋谷LUSHでのライヴをもって2人は脱退した。3人がそれぞれの持ち味を存分に発揮したライヴを披露し、3人で最後に演った曲は“ザ・ワールド・イズ・ユアーズ”だった……。

 僕は相変わらずです
 今朝も自分のネジを巻いて出掛けました
 傷を舐めながらギターを弾いてます
 あの頃と違うのは 君が食器を洗う音が

 いつまで経っても聞こえない

        “ザ・ワールド・イズ・ユアーズ”より

 そして、吉田諒はネズミハナビを存続させることを決めた。というより、バンド解散という選択肢はハナから無かった。元々、ネズミハナビは吉田が始動させたバンドで、彼の表現をカタチにし、世に打って出る場であるとも言える。脱退が決定後、新体制に向けて動き出した。ギターに宇塚博之(the strange drama)、ベースに谷口翔太(サクラエレクトロ)、ドラムに斎藤裕太(正式メンバーとして加入。18歳!)を、また2月までのサポート・ドラムに森田浩昭(SSIZE)を迎え、これまでとは違う4人体制でのバンド・スタイルで、強力で立体的な音像を打ち出してくれるだろう。それは吉田のブログや毎週月曜に放送しているUst番組でも垣間見られる。きっと心配は要らない。ネズミハナビの歌に惹かれた者なら、それは解ってもらえるだろう。
 文学的な歌詞をパンクっぽいサウンドに乗せ、艶のある声で歌う。一度ハマると抜け出せないほど中毒性の高い音楽性は、吉田が書くビート文学のような歌詞に因るところが大きい。ざっくり言えば、ロック好きな文学少年だった吉田が、愛と孤独と世界に翻弄されながら成長する歌がスピーカーから聴こえてくる。
 誰もが十代から二十代前半の頃に出会うであろうロックや文学。例えば、RCサクセション、ブルーハーツ、ハイ・スタンダード、ブランキー・ジェット・シティ、ミッシェル・ガン・エレファント、ゴーイング・ステディ、セックス・ピストルズ、クラッシュ、ニルヴァーナ、グリーン・デイ、オアシス...。例えば、サリンジャー、ジャック・ケルアック、カフカ、ブゴウスキー、太宰治、三島由紀夫、宮沢賢治、寺山修司、中原中也、手塚治虫、村上龍、村上春樹...。これらに16歳で出会うのと26歳で出会うのとではまったく違ってくる。ティーンの頃に受けた衝撃や感動は、かけがえのないものだ。その衝動はずっと心に残り、20代後半、30歳、40歳と年を重ねても、色褪せるどころか、より明確になり、替えが効かなくなる。「やっぱ俺、ロックンロールが好きなんだ。青春小説が好きなんだ」と確信する瞬間が何度もある。そういう人、多いんじゃないだろうか? そういう人は、きっとロックや文学に囚われてしまったんだ。
 ネズミハナビはそんな囚われの身の僕らに文学ロックを差し出す。今作は2008年から2011年までに作られた楽曲が、限りなくベストに近い状態で並べられている。現時点で一時間ほどのライヴをやるとして、ベスト選曲と言える12曲だ。聴いている内に、40過ぎの僕は、かつての自分と再会する。吉田本人は無意識だろうけど、ネズミハナビはそういうバンドだ。だからこその〈奇跡の文学ロック〉なのだ。
 また、今作の全12曲中、“Dance.”“ハッピーライフ” “JAPANESE GIRL”の3曲のミュージック・ビデオが制作されていて既にYouTube上などで公開され、“Dance.”の再生回数は2万回を超え話題になっている。とっかかりはそれでも構わない。もちろんCDは聴いてほしいし、歌詞もじっくり味わってほしい。ただ、どうかライヴを目撃してほしい。ネズミハナビの、吉田のパーソナルな魅力や佇まいを感じ取ってほしい。そこで判断してほしい。好き嫌いが分かれるのは本人も自覚しているようだから。誰でもすんなり聴けるポップソングより、ロックは好きか嫌いかが、はっきりしてるぐらいがちょうどいい。



Text : 田代 洋一

 

liveinfo


12/13(火) 吉祥寺STAR PINE'S CAFE
12/28(水) 渋谷LUSH
他の日程、詳細は www.nezumihanabi.com にて

releaseinfo『ザ・ワールド・イズ・ユアーズ』
12/7 Release
妄想本舗 / BounDEE by SSNW
DQC-823


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