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かりゆし58節炸裂のラヴ・ソング『ナナ』
恥ずかしいほどの言葉に真実の想いがある
会う度に親近感や頼りがいがあると感じさせてくれるかりゆし58の音楽。それは斜めからものをみたりせずにまっすぐな想いでしか言葉を口にしないこと、奇跡的な美しさとやさしさと強さがあるからだと確信する。独りよがりではない、会話する音楽。いつも本気で何の迷いも持たない芯の言葉を同居させた音楽。「泣き歌」として再浮上した“アンマー”の話から新曲“ナナ”、ブルーハーツのカヴァー曲まで。愛がつないだ奇跡をボーカル・前川真吾に訊く。
■最近になって“アンマー”が再浮上して、お茶の間で話題になってますが、ここまで吸引力のある曲になるなんて、前川くん自身想像もしてなかったんじゃないですか?
前川:そうですね。“アンマー”を出した頃にも同じことを言ったんですけど、この曲が受け入れられるのは、曲やバンドの魅力というよりも誰にとっても普遍的な存在である、母親のことを歌っているからだと思うんですよ。ボクらの親子関係に感動しているのではなくて、みんなにとっても母ちゃんの存在はやっぱり大きいんですよね。あと、時間が経てば自分中でもこの曲に対しての感じ方が変わると思ってたんですよ。こんなにも多くの人が“アンマー”を聴いて涙を流してくれたんだから、自分の中でも名曲だと思えるんじゃないかって。
■自分の中で名曲だとは思えなかったんだ。
前川:ものすごく恥ずかしいこと歌ってますからね。書いた時の正直な気持ち。リアルな曲ってだけですよ。
■当時はこの曲が売れなかったら事務所との契約が切れてしまうという瀬戸際にありましたよね? すごく切羽詰まった状態の中で前川くんから出てきたもの。それが気持ちを丸裸にした“アンマー”で。でも、そこには音楽へのまっすぐな気持ち、目に見えない力がすごく詰め込まれていたんじゃないかって思うんですよ。母親を想う気持ちにプラスされたミュージシャンとしての想い。その二つがあったからここまでの吸引力を持ったんじゃないんですかね。
前川:あの時は音楽を続けたいという気持ちから解脱したところに実はいたんですよ。ハローワークに行く準備もしてたし。バンドとしてステージに立つ以上は人よりもかっこいい存在であったり、人より鋭い言葉を発していかなければいけないと思ってたけど、「次ダメだったら契約切れるよ」って言われた時に思ったんです。「ステージに立つ人間とそうじゃない人は紙一重でしかないんだ」って。何ミリかの違いの中でうごめいてることに気付いたら、すごく寂しくなってしまった。でも、まだCDを出すことがとりあえずはできて、その為にたくさんのスタッフが動いてくれるんだから、母ちゃんに「これだけの人がCD出すためにがんばってくれてるんだ」ってことを形にして渡したかったんですね。そう思うようになったら音楽感も変わってしまって。誰かがいて、初めて言葉がコミュニケーションとして生まれるんだから、独りよがりでやってたらそりゃ誰にも共感されないわって。今までやってきたことが幼く感じられた瞬間。音楽は人との関わり合いを持つものにしようと決めたきっかけをくれた曲でしたね。受け入れてくれる人の包容力を感じて、またそこに還していける音楽。会話を続けていく気持ちが曲数を増やしていって、成長していくことがこのバンドの在り方なんだなって。
■バンドの在り方まで気付かせた曲なんですね。
前川:かっこいいバンドにインスパイアされて、そうなろうとしても、そこには届かない。それに近いだけのバンドになってしまったと思う。ロックじゃないという人もいるかもしれないけど、かりゆしでできることを着実にやっていきたいんです。
■ロックじゃないというのは聴こえ方のこと言ってます?
前川:いまは「聴く人の耳に気持ちいい音が届くように」というモチベーションからいろんなことをやり始めてるんですけど、それがロックなのかもわからないというか。「それってロックだね」って、感覚あるじゃないですか? そういう感じではないと思うんですよ。衝動的ではないし、圧倒的なパワーではないし。民謡とかみんなのうたとか、そこに近いのかもしれない。
■圧倒的なパワーをロックというなら、かりゆしはロックなんじゃないですか?
前川:あ、そうか。オレ、ロックを理解してないのかもしれない。なんていうか、ロックの前にラヴを感じてほしいってことなんですよ。ロック云々じゃなくて、そこです。ダサイとか綺麗事って言われても、自分達の中では確たるものがある。死ぬほど嫌われてた人間がこれだけやさしくされてるんだから、それを還さなきゃウソになる。
■今回の“ナナ”もまさにラヴですもんね。母への愛、友への愛ときて、今度は異性への愛で。これもいろんな形の愛のひとつですが、包み隠さない丸裸っぷりが前川くんらしいというか。それがかっこ悪いぐらいにかっこいい潔さだと感じました。
前川:人生の中で大切な愛ですからね。でも、これは自分のラヴストーリーを描くというよりも、日常的な風景しか歌詞にのせてないんですよ。みんなが感じる愛やロマンスの瞬間ってものすごくドラマチックなものだと思うけど、一番幸せと感じることってごくありふれた日常だと思うんです。一緒にダラッとテレビ観てる時とか車で目的地に着くまでの会話のない時間だったり。その人じゃないと保てない平均値みたいなもの。無意識なところにあるラヴの方がロマンチックだなって。仕事中に思い出したりしないんだけど、その存在があるからがんばれるというか。実は勝負どころが大事なのではなくて、いつも心の中に誰かがいるのはものすごい財産だと思うんです。って、そこまで説明するとうっとおしいけど(笑)。
■ここまで丸裸な歌詞書いておいて、なにをいまさら言ってるんですか(笑)。
前川:はい。すみません。だって恥ずかしいじゃないですか。ここまで説明するのって。
■続けてください(笑)。
前川:えーっと……このラヴソングが誰かと誰かの間にあればいいなと。たとえば、“ナナ”を聴き終わったあとにトイレに行ったり、テレビをつけたり。そんな日常こそが大事なんだってこと。 それが言いたかった。
■かりゆしらしいとしか言いようがないほどにまっすぐなラヴソングですよね。あと、今回はブルーハーツの“情熱の薔薇”のカヴァーも収録してますね。どうでした?
前川:好き過ぎてあまりイジれなかったですね。
■イントロとかアレンジ利かせてるじゃないですか。
前川:どこもイジるとこがないから、せめてイントロだけでもアレンジしなきゃ意味ないですからね。偉大なバンドだし、すごい曲だからどうすることもできない。だからね、カヴァーではなく、ほぼコピー(笑)。自分達でこの曲を演奏して曲のかっこいいところ、聴いてるだけじゃわからない詳細がわかったというか。もどかしいんですよ。ボクが歌ってもあんな風にかっこよく歌えないし。
■リスペクトしてるからこそのカヴァーなんだし、それでいいんじゃないですか? 愛が感じられますよ。あ……、これも愛ですね。では、結果として愛が詰まったシングルということでよろしいのではないでしょうか。
前川:確かにそうですね、それでお願いします(笑)。
Interview&Text : 松木美歩
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