SAKEROCK


名盤サードアルバムのタイトルは『ホニャララ』!?
名もなきタイトルに潜むサケロックのエキゾポップ!!

 前作『song of instrumental』から二年。待望のサードアルバム『ホニャララ』が完成した。「ホニャララってどういう意味だよ」という疑問は追々星野が教えてくれるので置いといて。とにかくこの全12曲の完成度はめちゃくちゃ高い。最高の一枚に認定したい作品だ。朝、昼、夜。そして再び朝へと移り変わっていく、ごくありふれた日常を言葉なきインストで完璧に仕上げているさまは、なんなら歌詞があるものよりグッとくると言っても大袈裟ではないグッド・ミュージック。この一年で新たに導入された星野のマリンバが軽快にポップに心を弾ませ、ハマケンのトロンボーンが哀愁たっぷりに心和ませ、伊藤と田中のリズム隊が職人技で曲をまとめあげていき、ほぼ全面的に参加したグッドラックヘイワの野村卓史のキーボードがサケロック的ポップのど真ん中にさらなる煌めきをプラスした衝撃の問題傑作。情報が多過ぎるので、あとはインタビューを読んでいただくか、CD買ってがっつり楽しんでくださいよ。CDについてるブックレットが豪華過ぎて、音楽雑誌泣かせなことやってますから(笑)。それでは、昭和の匂い漂う新宿の喫茶店で行なわれた星野源&伊藤大地を迎えてのインタビューをどうぞ。ちなみに伊藤は時間の関係で途中退席していますので、あしからず。

■赤坂ブリッツのワンマンライヴも即日完売の大盛況で、ずいぶんといい状況になってきましたよね。となると、今作がさらなる次に向かうための、大切な肝になるのではないかと思いますが、これまた素晴らしい作品が出来上がって。右肩が上がりっぱなしですね。
星野:ありがとうございます。今回は「とにかくおもしろい作品、いい作品を作らなきゃ」という、ぼんやりとした目標というかプレッシャーがあって。とにかくポップで、業界の方も一般の方が聴いても「おっ」と興味が湧くような作品にしたかったんです。
■SAKEROCKによってポップの概念までもを崩された感じがします。ポップの解釈にもうひとつの答えを見つけさせてくれたかのような。これもまたポップ。いや、すごくポップ。耳馴染みがいいだけじゃなくて、心弾むものがポップであるって。
星野:ボクらなりのポップですけど、心の中で踊るのがSAKEROCKのポップだったらいいなと思います。僕はライヴでお客さんに「踊れー!!」とは言いませんし(笑)。動いて踊る人もいれば内側で踊る人もいる。聴いてる人によって違う楽しみ方をしてもらえるのが理想的です。
■そうですよね(笑)。こないだのブリッツを観てても思ったんですが、SAKEROCKのお客さんって言われなくてもわかってるんですよね。後ろから見てると「盛り上がってるの?」ってぐらいに大人しいけど、たぶん正面から見たらみんなにっこにこで心の中で踊ってるんだろうなって。それって、今回の細野(晴臣)さんのコメントにもつながってると思うんですよ。〈若者の「脱・ロック」は「サケロック」によって初めて明確に示された〉って。さすがのひと言に尽きるコメントですが、その通りだなって。
星野:このコメントをいただいた時は感動しましたよ。だって、日本語のロックを作った人にそんなこと言ってもらえたら幸せじゃないですか? スゲーなって。
■大物にそこまで言わせたあなた達がスゴいんですよ。
星野:恐縮です……ほんと。でも、ポップってことで言えば、全然SAKEROCK知らない人でも「おっ」って思ってもらえる作品にしたかったから、そこを今回は木琴が補ってくれてると思うんですよ。マリンバって速く叩けば、誰でも「おー、スゲー」ってなるし、大道芸的な、耳を惹くというか興味を惹く楽器だと思うんですね。そういった意味ではマリンバが強調されてる“会社員”が一曲目なのはいい流れで、こういうポップの在り方もアリなんじゃないかなって。
■マリンバのリズムがドラムとぶつかったりしませんか?
伊藤:いや、それは意外となかったですよ。始めは「ぶつかるかな」って思ったんですけどね。マリンバを叩く源くんを見てるという視覚的は変わるけど、ドラムとしては問題なかったです。リズム楽器が増えたなってぐらいで。みんなそうだと思うけど、ギターじゃない源くんを見てるのが楽しいんですよ。なにより源くんが楽しそうなので。
星野:マリンバはね、好きなんですよ。家でかなり練習もしましたし。
■普通は家で練習できる楽器じゃないんですけどね(笑)。
星野:そうですよね(笑)。でも、だからマリンバ置けるマンションに引っ越したぐらいで。
伊藤:マリンバを買ったのっていつ頃だっけ?
星野:一年前ぐらいかな。
伊藤:始めは触り慣れない楽器を触ってるって感じだったけど、今は物にした感じだよね。
■ブリッツで観た時に驚きましたよ。一年であんなに音数たっぷりに速く叩けちゃうものなのかって。寝ずの特訓したかのように華麗でしたよ。
星野:でもね、全然上手くないんですよ。プロのマリンバ奏者の人と並んでやったら雲例の差。でも、技術がなくて、こんなのでも興味を湧かせられる楽器だから、マリンバはポップな楽器なんじゃないかなって思うんですよね。
■マリンバを使い始めたのも、ポップを意識したからこそなんですか?
星野:単純に好きだっからです。前からレンタルで弾いてはいたんですが、買ってしっかり叩いてみてもっと好きになった。でも、きっかけは細野さんですよ。細野さんがマリンバを叩いてる、10年ぐらい前のライヴで白スーツ着て、メガネかけてマリンバ叩いてる写真を見たんですけど、すっごくかっこよくて。
■来るべき時が来たわけですね。
伊藤:スタジオで練習したよね。ドラムとマリンバでずっとタカタカタカタカって。
星野:30分ぐらいひたすら同じリズムでやってたよね。大地くんがドラムの基礎練習してるとこに合わせて、マリンバでタカタカタカタカって。そんなプレイヤー的なことやったの初めてでしたよ(笑)。
■30分の果てにお互いなにを思ったんですか?
伊藤:ついて来れたな、星野。
星野:やるな、大地。
■いい光景ですねぇ。で、そんなマリンバのリズムがふんだんに織り込まれた今回の作品ですが──。
星野:あ、すみません。無理矢理戻していただいて(笑)。
■いえいえ(笑)。インストから聴こえてくる風景、イマジネーションするところが日常的と感じられるのも、ここでいうポップの要素だと思うんですが、全体的な流れはどんなイメージで作ったんですか?
星野:日常感に関しては、全然意識してなかったんですよ。でも、最終的に曲名並べて、曲順を考えてみたら、なぜかものすごく日常感が溢れ出てしまって(笑)。確かに全部流して聴くと、一日の流れになってるんですよね。朝から始まって、夜になって、また朝になる。
■途中“菌”というタイトルが挟まってますけど(笑)。
星野:勝手な僕のイメージは、一曲目が“会社員”で慌ただしい朝を迎えるじゃないですか? で、慌ただしく家を出てしまったから通勤電車の中でお腹痛くなって、ぎりぎりでトイレに駆け込んでウンコして、その菌(笑)。
伊藤:あれはのっけから慌ただしい曲だもんね(笑)。
星野:大地くんのドラムが一番慌ただしいもんね(笑)。
■あのビートはそういう気持ちの表れだったんですね(笑)。で、『ホニャララ』というタイトルなんですが。ホニャララってあまりにも曖昧かつ意味深で、タイトルとしてはかなり斬新ですよね。このタイトルが意味するところってなんでしょうか?
星野:『未来講師めぐる(テレビ朝日系)』ってドラマを撮ってた最中に深田恭子さんと世間話してたんです。そしたら深田さんが会話の途中で「ホニャララ」って言ったんですよ。ふつうだったら「何々」とか「なんとか」って言うところを「ホニャララ」って。その言葉が新鮮で。なんだかタイトル向きだなって。それでタイトル決めました(笑)。だから今年の初めにはアルバムタイトルだけは決まってましたよ。
■理想を表現すると少し過剰になるけど、大袈裟なぐらいがリアルなんだなって思うんですよね。そこをこの作品から感じられて。たとえば、ドリフの家族コントがあるじゃないですか? さすがにタライが上から落ちてくることはないけど、昭和のありふれた家族像っていうのが大袈裟なぐらいに描かれてて。それぐらいに理想の日常がこの作品にはあるんじゃないかって。勝手なイメージですけどね。はい(笑)。
星野:それいいですね(笑)。でも、そこまで深いものを作るつもりはなかったです。
■こっちが深く捉えようとしてしまってるのかもしれないですけどね。
伊藤:いや、それでいいんですよ。インストだからできることなんだろうし。歌詞があったらそこまでの分析できないじゃないですか?
■そうですね。SAKEROCKは歌詞がない分、メロディーが歌ってますからね。聴き手の想像力を豊かにするバンドだと思いますよ。
星野:いやー、いいお客さんですね(笑)。嬉しいよね、そこまで考えてくれてるっていうのは。
伊藤:至福の時だよね(笑)。いや、でもね、やっぱり源くんがすごいんだと思う。今回はボク以外の三人が曲をそれぞれ書いてるんですけど、源くんがポップなものを作りたいと言いつつも、ハマケンと馨くんに「こういう曲作って」とは言ってなかったんですよ。出来たものに対しても、「ああして、こうして」ってコントロールしようともしないし。任せられるっていうのは、信頼だけど、曲が揃うまではどうなるかなんて誰もわからないし、誰もコントロールしないし。でも、すべてが出来た時にどう繋げていくかってことを源くんは考え始めるわけですよ。すごく上手いと思う。変にこじるわけでもないし、ちゃんと時間をかけて考えるし。最後に録った曲もそうだよね? それがちゃんと最後の曲になってるじゃない?
■ “エブリデイ・モーニン”ですよね?
星野:自分の中で始めて夕方や夜じゃない曲ができたんですよ。「源くんの曲ってだいたい夜とか冬とか雨とかみたいな曲が多いよね」って言われてたのもあったし。
伊藤:源くんはサマーな人じゃないから仕方ないよ。
星野:そうだね(笑)。でも、だから晴れ間のような曲を作りたいって課題もあって、結果的に曲同士のいい繋がりができたからよかった。楽しいんですよ。それぞれ別々の形であったものを繋げていく作業って。今回はコンセプトアルバムってわけじゃないのに繋げてみたらストーリーができちゃってるから「おもしれー」って。
■そんな流れの中の“千のナイフと妖怪道中記”についても伺いしたいんですが、この曲すごくに困惑したんですよ。どう解釈したらいいのやらで。これは坂本龍一さんの“千のナイフ”と川田宏行さんの“妖怪道中記”を合わせたカヴァーってことなんですよね?
星野:特に音楽シーンの「知識」がない人は「この曲凄いかっこいいね」って言ってくれるんですけど、音楽好きは困惑するみたいですね。それがおもしろいんですけど。知識で音楽聴く人って可哀相だなって思います。まず坂本龍一さんのカヴァーをするってこと自体に驚かれますね。候補は他にもあったんですけど、マリンバでカヴァーできる曲も限られてくるので。で、候補の中に“妖怪道中記”っていうゲームのサントラもあったんですね。「これもかっこいいな」って思ってたんですけど、「ちょっと待てよ。この曲“千のナイフ”に似てるな」ということに気づいて、「あー、これはオマージュなんだ」と。パッと聴くと似てるんだけど、ちゃんと聴くと全然違う。じゃあ、これを一緒にやったらおもしろいんじゃないかって。
■原曲とオマージュされた曲を合わせるっていうのも、ずいぶんと斬新な発想ですよね。そりゃ困惑もしますよ。
星野:“妖怪道中記”を知らない人が多いので、どこまでが“千のナイフ”なのかっていうのもわからないのかもしれないですからね。
■いや、それどころか“千のナイフ”を知らない人も多いだろうから、ヘタしたら「SAKEROCKに坂本龍一が曲を提供した」ぐらいのことを思う人もいるかもしれませんよ。
星野:とんでもない話だけど、それおもしろいですね(笑)。でも、この曲はただの遊びです。単に思いつきですよ。
■そんな遊び心もあって、いろんな旨味があって、いい作品になりましたね。
星野:ありがとうございます。いい意味での予想外もたくさんあるし、いろんな感想を聞くことができる作品なので達成感がかなりありますよ。本当はボーナストラックを入れようかとも思ったんですけど、「ここまで完成度が高いんだから余計なことしなくていいよ」って周りから言われたぐらいで。いつもは真面目にやるのが、恥ずかしいから照れ隠しの要素を入れてしまうんだけど、かなり完成度の高い作品ができちゃったので、いろんな人に聴いてもらえるいいきっかけができたと思います。

 

Interview & Text: 松木美歩