こんな現在だからこそのリリック、
そしてハードライミングが輝くメッセージソング。
2010年、決して誰もの記憶にいい年として残るような一年ではなかったような気がする。不況が叫ばれ、景気のいい話にはめったにお目にかかれない、そんな時代。しかし、それで腐ってちゃ、状況なんてよくなりようがない。この『Fly Away』は、どんな状況になっても、立ち上がれ、飛べ、とライムしてくれている。じっと状況がよくなるのを待ってちゃ、ラックなんて飛んでこない。自分から行かなくちゃ。そう、フロアーへ、ストリートへ、俺達はどこにでも行ける。そんな勇気を奮いたたせてくれる、メッセージソングだ。
■この作品『Fly Away』に対してどんな感想をお持ちですか?
Zeebra: (聴き手が)ヒップホップを聴き始めた時代によって、この作品に対する印象はだいぶ違ってくるんじゃないかなって思いますね。オールドスクールの世代で、80年代中頃のヒップホップを聴いてた自分にとっては、すごく普通な事なんですけど。今のヒップホップのファンの大多数というか、1番中心的な人達ってたぶん90年代のヒップホップを聴いて、好きになって……そこを中心に持ってくる人達が多いと思うんですよ。そういう人達からすると、「オルタナティヴだな」っていう印象はあるのかもしれないですね。でもうちらの世代からいくと──ジョン・ライドン(ex SEX PISTOLS/PiL)とアフリカ・バンバータが一緒に曲を作ったりしてた時代なんで。Run-D.M.C.にしても初めの2枚は、ロック・サウンドだったし。そういう意味では、ブレイクビーツの1つみたいなつもりですね。曲に関しては、大阪のVAXIMが作ってるんですけど、何曲かトラックをもらっていた中で、一聴した時に「何だこのビート、超カッコイイ!」って。もう、そこですね。「かっこいいビート」っていう所でまずはピンときて、サビ部分のギターのフレーズなんかは、ここ最近のヒップホップのハイブリッド化というか──例えば、B.o.BやBLACK EYED PEASにしても、ロック的なアプローチも色々と取り入れたりしてるじゃないですか。そういうのがやっぱり、今のトレンドだと思うし、自分も聴いてて楽しいし。アルバム1枚とか2枚とかを、こういう風に全部やっちゃったら「あれ、どこに行っちゃうの?」って心配されても当然なんですけど、あくまで1曲だし(笑)。「ロックをやってる」っていうつもりは特になく、普通にブレイクビーツとして、たまたまピックアップしたのがロックだったっていう事じゃないですかね。
■なるほど。BEASTIE BOYS的なアプローチというか。
Zeebra: そうそうそう!「ブラックミュージック」としてヒップホップを捉えるのは、まぁ普通だと思うんですけど……自分も今まで聴いてきた音楽の90%はブラックミュージックでしたし。でも、ヒップホップっていうのは元々、色んな物のかっこいい部分を取ってきて出来る音楽なんで、例えそれが、ロックだろうとR&Bだろうとジャズだろうと何でもいいと思うんですよ、クラシックでもいいですし。そこで自分がラップした瞬間に、ある意味それはヒップホップになるというか。そういう感じですかね。
■ご自身の立ち位置も俯瞰で見られた中での作品ですね。
Zeebra: そうですね。あと、ここ最近の自分のヒップホップの表現っていうのが、新しい物をやりたいっていうか、ヒップホップを次のステージに持って行きたいなっていう意識がすごくありまして。例えば今年の初め、今回もリミックスが入っているんですが、Mummy-DとRYO the SKYWAKERとDOUBLEと一緒に作った“Butterfly City”はモロ4 つ打ちだったし。最近は4つ打ちがすごく多いんだけど、そういうのってヒップホップの可能性に対するアプローチだったりするし。それでいながら、9月に出した“Endless Summer”はラテン・ジャズな感じで……そして今作はロックでっていう。ヒップホップの雑食性を、シングル1曲1曲で表現していけたらいいのかなって、思ってて。振り幅の広いアルバムを作りたいなっていう気持ちの表れっていうか。色々と、多岐に及んで可能性を探る時期なんじゃないかなってのを感じてますね。
■今、音楽の話を絡めてお話しして頂いてると思うんですけど、“Fly Away”のリリックにもそういう事と繋がったメッセージを感じられますよね。
Zeebra: そうですね。歌詞の内容って、自分の成長や歩みなんかと併せて内容も変わってくるっていうのを、意識して書いたんですけど。たぶん5年、10年前とかだったら、あんまり出てこないようなリリックになりましたね。初めのうちは、もう少しシステマティックに自分の計画を意識してた──例えばここがアメリカだったら、その計画通りに進んだかもしれない。でも人種の多様性の違いだったり、メディアの現状が違ったり……そうやって違う部分が勿論あるんで、なかなか思った通りにはいかないなっていうのを、ここ何年か感じてまして。そういう事に対して今、自分がするべき事は「とりあえず、がむしゃらに動く事」……自分のアンテナに対して、素直に正直に動く、っていう事ですね。一時期は自分の中での「キング像」みたいなものがあって、それを意識していたことがあるんですよね。エンターテイメント性を含めて、雲の上の存在であるべきだな、っていうのを感じていて。だけど、日本は元々、ひけらかすような文化じゃないし。それだけじゃ、全てを上手く統制できないというか。最近は、クラブもひたすら行ってるし、20代の若い連中と一緒になってバーカン(バーカウンター)でテキーラを飲むし(笑)。そこで、「ラップしてるんです」って言ってきたら「おぉ、じゃあやれ!」って言ってその場でフリースタイルでやらせて、俺もそれに返したりとか。そんな感じで、自分の熱を120%表現していく事によって、現場の空気が変わったり、その先に繋がっていくんじゃないかなって思うんですよね。行く先などどこでもいいって感じで、本当にどこに行くのかわからないけど……でも、やらなかったら先には行けないんで。とりあえず、がむしゃらに動く!ここ何年かずっとそんな感じだったんで,より幅を広げてやっていけたらなっていうのは思ってますね。今までは自分も「ヒップホップ界を代表する」っていう意識がメインだったんですけど、それだけじゃなくて音楽業界全体にとっても──何か1つの起爆剤になる存在で居たいです。特にストリートミュージックとかを意識したときに、自分が何かの要になれたらなって思いますね。最近だと、内田裕也さんとかロック界の大レジェンド達にも自分達の存在意義を理解してもらったりだとか。年下とも色々とフレックスするけれども、先輩達……パイセン達と(笑)、一緒に居る機会もすごく増えて、それはたぶん高木完さんと一緒にイベント(隔月第3水/HARDCORE FLASH@西麻布eleven)を始めたって所がデカイのかなって思います。その延長線上で、色々な人達とご一緒させて頂いてます。自分としては、そういった先人達が作ってきた部分を、良い形でさらにパワーアップさせて根付かせていけたらいいなって思ってます。新しい20代とかの世代と、40代50代の世代の架け橋みたいな役割に自分がなれればいいなって思ってますね。
■なるほど。“One And Only Feat. BIG RON”はいかがでしたか。
Zeebra: 最近の自分の曲の作り方としては、最初に音を聴かせてもらってそこから選んでいくってパターンなんですけど、今回もそんな流れで制作しました。まず聴いた時に、歌が浮かんで、「これは絶対に歌メロが必ず乗るものだな」って思ったんですよ。で、サビで自分がラップするとか、俺のラップが出てくる前に、アタマの部分に結構長めに歌があるなとか、そういうイメージがあって。頭の中で1番最初に鳴ったのがAkonだったんですよ。Akonみたいな雰囲気を日本で頼むなら誰かなって考えて、レゲエのシンガーかなぁとか、美声系じゃなくてクセのある感じなんだよなぁとか色々考えてた時に「BIG RONこそ、まさにヒップホップシンガーだね」ってなって。今までも何曲か一緒にやった事もあったんですけど、2人で1曲っていうのはなかったんで、やってみても面白いかなって思って。ちょうど、BIG RONのあるアルバムに俺が参加する事になってたんで、じゃあ互いにって。
■3曲目に入ってる“Butterfly City”は、先ほどおっしゃっていたトラックのリミックスですね。
Zeebra: はい、GUNHEADとは今回2回目なんですけど、彼の面白い所はヒップホップとテクノを同率にずっと聴いてきた奴っていう所ですね。知り合いから「こんなのもあるんですよ」って渡されたのが“証言”のGUNHEADリミックスだったんですよ。それがまた面白いし上手く出来てたんで、DJする時にひたすら流してたら、フロアの反応が毎回良くて。そしたらtwitterで、むこうから「ありがとうございます」みたいなメッセージを書き込んできたんですよ。そこからやりとりが始まって「他にも色々あるんで、送らせてもらってもいいですか?」って言ってきて、その中に俺の“Parteechecka”のリミックスだったり、“Street Dreams”のリミックスが入ってて「お前、秀逸だねぇ!」ってなって。それからクラブに誘うようになって、よく顔出しに来てくれて……そこで「“Street Dreams”のリミックスが結構良かったから、俺の作品の中に入れようかと思うんだけど、どう?」って言って、前回のシングルに入れたっていう。そこから彼もだいぶ注目されるようになってきて、そこを、もうワンプッシュしてみようかなって事で。でもこの曲自体、元々が4つ打ちだったから、そこからどう変えるのかっていう──引き出しがいっぱいあってやり口も面白いんですよね。実際、アルバムにはオリジナル曲も1曲入る予定です。GUNHEADのオケで。それはそれで、すっげーヒップホップです。でも、コイツだからやれるようなヒップホップ。音色とか作り方とか。今、ちょうどリリックを書いてる途中なんですよ。
■そうなんですか!それは楽しみですね。
Zeebra: 結構、ヤバイのが出来そうです。
■今はまさに、アルバムに向けての準備期間中という感じなんですかね?
Zeebra: そうですね。ひたすらそういう作業をやってる時期ですね。あとは今年は客演も結構やってきて、評判が良かったってのもあったんで、最後の客演を年末に1個やる予定があります。さっきも言ったように、アルバムに関しては色々なベクトルの曲を入れていきたいし、色んな入り口とそして出口を作っていきたいなって思ってます。色んな音楽に対して良い意味で触手を伸ばせるようなアルバムになってほしいと思う。それを仕掛けて、来年果たして、俺だけじゃなくてシーン全体としてどうなっていくのかなっていう。来年にある程度のビッグバンを起こさないと、つまんねーな、っていう(笑)。みんな、爆弾は完璧に出来上がってて、セット完了な状態なんで……あとは点火のタイミングですね。一気にドカンといく時期なんじゃないかな。なので俺は──策士としても動けたらなって思ってます。
Interview & Text: 林拓一朗
Photographs: Keita Nakada (friday.A)
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